てんかんの外科治療

てんかんの外科治療

てんかんの外科治療は、発作をなくするだけでなく、生活の質(QOL)の向上を目標としています。手術自体の直接の効果は発作が消失することですが、QOLの向上を目指すためには、手術の後もてんかんの包括医療のもとに支援を続ける必要があります。
以下、外科治療の概要を説明します。

どのような方が外科治療を受けているか

てんかんの外科治療のおおまかな適応基準として
・脳の中の限られた場所から発作が起こっていること
・薬で発作がおさえられない状態が2年以上続いていること
・発作がよくなれば、生活の質(QOL)がよくなることが期待できること
・手術による大きな後遺症がないと予測されること
・患者さんやご家族が手術の意義をよく理解していること
があげられます。
逆に言うと、脳の何箇所からも発作がでている場合や、発作が運動や感覚、言語など、脳の重要な働きに関わるところから起こっている場合、手術するかどうかについては慎重に考える必要があります。
手術時期については、脳腫瘍をもつ人や、出生早期から発作が頻発していて発達が障害されるおそれのあるお子さんでは、2年を待たずに、早めに手術適応を検討します。

以前は、薬での治療をとことん行なっても発作がよくならない場合の最終手段として外科治療が考えられてきましたが、診断の進歩とそれに伴う手術成績の向上により、患者さんによっては、早めに手術を行なったほうがよいとされるようになってきました。すなわち、側頭葉てんかん(海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん)や、限局した病変(腫瘍や皮質形成異常など)をもつ患者さんでは手術で発作がよくなることが多いので、積極的に外科治療の適応を検討するようになってきました。

手術へのステップ

 薬の治療を続けていてもなかなか発作がよくならない場合、まず、ステップ1と呼ばれる入院で、ビデオ脳波同時記録、脳の画像診断(MRI, CT, SPECTなど)、神経心理検査などを行ないます。また、精神・心理学的な評価や、患者さんの生活背景を充分に把握することがとても重要です。
ステップ1の結果を検討し、手術の適応があるかどうかを判断します。手術の適応ありと判断された患者さんでは、直接に切除手術(ステップ3)に進む場合と、慢性頭蓋内脳波記録(ステップ2)を経て最終的に切除手術にすすむかどうかを決める場合があります。慢性頭蓋内脳波記録とは、脳の表面や内部に電極を置いて脳波を調べる検査のことです。
 術前検査とは、てんかん発作が起こってくる脳内の部位を確認する作業に他なりません。ところがてんかんと大脳の関係は一筋縄ではいきません。脳腫瘍や形成異常などがある場合、このような病変そのものよりやや拡がった範囲から発作が起こってくるのが通常です(発作起始域)。つまり、病変だけを切除しても発作が止まらないことが多いのです。しかし、発作は起こさないもののてんかん性の脳波異常だけを呈する範囲はもっと広く(興奮域)、脳波異常も発作も起こさないものの本来持っている機能の異常がみられる範囲(機能低下域)はさらにもっと広いのが通常です。これら複雑な関係を可能な限り明らかにして、どこを手術したら発作が止まるのかを検討するのが術前検査なのです。
術前検査には、術後に後遺症は出現する可能性を推定するというもう一つの重要な役割もあります。
てんかんの外科手術は、関係する専門領域の緊密な協力があって初めて安全かつ有用に進めることができます。

手術成績

 手術適応(どのような患者さんにどのような手術を行うのか)と手術成績(手術でどれくらいよくなったか)は表裏の関係にあります。すなわち、手術で発作がよくなる可能性の高い方では積極的に手術することを考慮します。一方、手術しても発作がよくなる可能性が低い、あるいは手術によって後遺症がおこる懸念が高い方では、慎重に適応を検討します。
手術成績について、側頭葉てんかんと、それ以外のてんかん(側頭葉外てんかん)に分けて述べますと、側頭葉てんかん、特に内側側頭葉てんかんの手術成績は優れており、約8割の患者さんが発作から解放されています。一方、側頭葉外てんかんの手術成績は側頭葉てんかんよりはやや劣りますが、MRIで病変が見つかった患者さんでは約7割の方で発作が消失します。一方、側頭葉外てんかんで、MRIで病変を認めない方の手術成績は思わしくなく、発作がなくなる方の割合は5割にも満たないのが現状です。実際に手術するかどうかは、個々の患者さんで、手術で良くなる見込み、悪くなることがないかどうか(大きな後遺症が出ないかどうかなど)など、手術による得失をよく考えた上で判断することになります。
 当院ではすでに1300人以上の患者さんのてんかん外科手術を行っています。右表は当院でてんかん外科手術を受けて術後2年以上経過した684人(うち188人は10年以上経過)の患者さんの発作の経過を示したものです。また、円グラフは2013年1月から12月までの1年間の患者さんの切除術の手術部位をまとめたものです。
おおよそどのような手術が行われ、その結果はどうだったのかおわかりいただけると思います。

包括医療の重要性

外科治療は単に発作を止めるだけでなく、それに伴うQOLの向上を究極的には目指すものですから、単に発作がよくなるかどうかという医学的な事柄だけでなく、患者さん個々の全体像をよくみて、外科治療が患者さんのQOLの向上に結びつくかどうかを、術後に発作がよくならなかった場合も想定して考える必要があります。
当院では、脳外科医だけでなく、看護師、精神科医、臨床心理士、ソーシャルワーカー、作業療法士など、多職腫のチームによる包括医療をおこなっています。実際にそのような医療が患者さんにとって必要だからです。手術は決して治療のゴールではなく、その後も続く治療の中での大きな通過点として位置づけられるものです。患者さんによっては、術後に発作が再発し、ショックで落ち込むこともあるかもしれません。また、手術で発作がなくなっても、自立した生活を送れるようになるためにはカウンセリングや就労支援が必要な方もあります。当院では、患者さんの心理・社会的な側面も含めて、手術後も継続的に支援が行なえるようにこころがけています。
(文責:臼井直敬)